大津歴まち百科 フォーラム
「リノベーションでまちづくりを考える
 〜大津市中心部の文化遺産と旧長等合同宿舎の活用をめぐって〜」

  • 司会・フォーラム統括アドバイザー:中川理(京都工芸繊維大学 教授)
  • 講師:
    いしまるあきこ(リノベ女子 代表)
    コイケシホコ(大阪市立大学 准教授)
    徳田光弘(九州工業大学 准教授)※インフルエンザのため当日ご欠席
    山根健太郎(建築設計事務所エキスポ)
  • 内容:各講師による講演 / 意見交換・討議
  • 2016年2月20日(土)13:30〜16:30
  • 三井寺事務所 講堂(滋賀県大津市園城寺町246)

◆概要

1969年に建設された旧長等合同宿舎は、いわゆる団地型の集合住宅の一つで、大津市中心部にある琵琶湖疏水や三井寺など数多くの文化遺産に隣接する素晴らしいロケーションを占め、すでに40年以上にわたって大津市中心部の景観の一部となってきました。
そこで本フォーラムでは、周辺をとりまく文化遺産を活用しつつ調和したかたちで、今は使われなくなったこの宿舎を継続して利用する可能性を探り、歴まち大津に相応しい未来像を創造するために、リノベーションの実践で活躍している方々をお招きして一緒に考えていこうと思います。

◆歴まち大津の未来を考える会・会長(福家俊彦)挨拶

本日は、「旧長等合同宿舎はどのような形でのリノベーションが考えられるか」そのイメージを豊かにして頂く機会になればと思っています。

大津市というのは琵琶湖があり、文化財も豊富で歴史の古いまちである、ということは皆さんもご存知だと思います。しかし現在の流れを見ていると、他の「地方都市」と同様に、大型ショッピングモールやレンタルビデオ店、コンビニやファストフード店が立ち並ぶようになり、これに関しては随分前から「他に考えようがあるんじゃないか」と言われています。また或る人はこのような地方都市の流れを「ファスト風土化」と呼んでいます。大津市に於いて「文化遺産をどのような形で共有していくか、そしてまちづくりに活かしていくか」ということは、本会にとっての大きなテーマの一つです。
本会は、住民による内側からの視点だけに限らず、外部からも様々な視点を取り入れようとやってきました。一見矛盾するようなハッとする見方、コンセプトの枠から漏れてしまうもの、或は言葉にできない・数値化できないものを出来る限り大事にし、まちづくりに取り入れたいと考えています。本会は今年度「琵琶湖疏水」「大津の瓦」「大津の樹木」「大津の仏像・神像」をテーマにワークショップを開いてきました。これら内部の視点をふまえて、また先程お話した外部の視点からも、本日は旧長等合同宿舎の可能性を考えてみたいと思います。
旧長等合同宿舎は、一般競争入札に付されることになっています。しかしこれを上手く地域のために活かせないだろうか、というのが本フォーラムのテーマでもあります。近代化遺産の琵琶湖疏水や文化遺産の三井寺、また北国街道にも近く、この一帯は昔ながらの景観を残す地域でもあります。現在宿舎が建っている場所は、長い間公共的な利用が続いてきた土地で、一昔前には長等小学校校舎が、明治期には滋賀県知事の官舎が建っていました。
私は、「リノベーション」は「シュールレアリスム」に繋がるのかなと思っています。『ミシンと蝙蝠傘が、解剖台の上で出会う(ロートレアモン)』というように、異質なもの同士が出会うことで化学反応を起こし、新たな意味が生まれてくる、とそういう期待を持って、私も今日は勉強させていただきたいと思います。

◆中川理(京都工芸繊維大学教授、建築史学会会長、歴まち大津の未来を考える会会員)氏による講演(徳田氏欠席のため代理講演)

長等合同宿舎の魅力

今日は「旧長等合同宿舎を巡るリノベーション」というもので、大津のまちを考えるきっかけにして頂きたいと思います。私は大津の住民ではありませんが、「歴まち大津の未来を考える会」に関わるようになってからはずっと大津に通っています。この合同宿舎を見た時は、非常に魅力を感じました。とにかくロケーションが素晴らしい。ここは、元々大津の中心的な施設が集まっていた所で、琵琶湖疏水を挟んだ向かい側の地域にも重要な施設が立ち並んでいました。合同宿舎が今は使われなくなっているのなら、これは上手く活用すべきだと思いました。
【長等合同宿舎の写真と原設計図】いわゆる「団地」というスタイルの建物で、40年も絶っていますから、一般的に見ればただ古びていて意味の無い・価値の無い建物のように見えるかも知れません。しかし我々(建築史を扱う者)から見るとこれほど素晴らしい建物は無いわけです。

建築の文化財的価値とは・・・

【大阪証券取引所の写真】これは大阪の北浜にある証券取引所です。昭和10年(1935)に建てられたものですが、その後建て替えの話が出たときに保存検討委員会というのが立ち上げられました。私もメンバーの一人で、この建物は北浜のシンボルであり文化財であるから保存すべきだと考えました。建設会社や土地所有者と共に検討した結果、古い建物は残し、それに隣接するように現在のビルが建てられたわけです。
このような建て替え検討の場で、我々研究者というのは「この建物の文化財的・歴史的価値はドコにあるのか?」という質問に対し、色々な意見を伝える立場にあります。しかし「この壁面はどこまで残せばいいでしょう?ここまで?それともここまで?」と聞かれるときには虚しく感じることがあります。それは最早我々のすべき判断ではない、というふうに思うようになってきました。更に、「建物」に対して必ずしも「文化財」の価値ではないのでは、と思い始めたわけです。

建築も資源です

数年前、私の務める京都工芸繊維大学で「建築も資源です」という合い言葉の教育プログラムを立ち上げました(建築リソースマネジメントの人材育成教育プログラム)。幸いなことに、日本建築学会の教育賞を頂きましたが、このプログラムの中では様々なフィールド実習も行いました。学生と共に台湾やマケドニアに行って現地の古い建物の改修計画を立て、京都山科にあるモダニズムの住宅では実際に改修工事を行いました。
大学の建築学科の教育というのは「新しいものを建てる」ということを前提にやってきましたから、「既存の建物を測って、修復計画を作り再生させていく」ということは、学生にとっては新鮮だったのでしょう。

UR団地の再生

これまでは文化財的価値のある建物だけが再生工事の対象とされてきましたが、最近では、UR団地の再生というものも非常に盛んに行われてきています。これは集合住宅として、今回の長等合同宿舎と同タイプだと言えますね。こういうコンクリート造の集合住宅が築40年以上経った今、UR主導で色々な政策が試みられましたが上手くいかず、2010年から「団地マネージャー制度」や「21世紀モデルプロジェクト」というものが始まっています。
基本的に団地というのは、文化財とは違います。そういうものをどうやって維持していくかということが社会的なテーマになっています。つまり綺麗に修復するのではなく、「エイジングを受け入れて改修する」ということが合い言葉になってきます。
例えば、新しく庇を付ける、団地特有の画一された空間にデザイン的要素を組み入れる、などがあります。或は、香川県洋光台のURで取り組まれている「community challengeラボ(CCラボ)」のように、いくつかの部屋を使って団地内でコミュニティーを発生させる仕掛け作りも考えられます。それから今回の長等の宿舎を見たときに一番に思い出したものですが、千代田区の「3331 Arts Chiyoda」というプロジェクトで、閉校となった中学校校舎を改修して、ギャラリーなど非常に多目的なスペースとして活用しています。この建物の募集要項には「これまで地域文化の創造や社会活動に貢献してきた実績のある文化芸術団体へのスペースの貸出を行います」と書かれています。団地と同様、校舎そのものに文化財的な価値があるとは言いにくいですが、ここを地域拠点或はアートの拠点にしていこうというプロジェクトです。

徳田光弘氏の活動紹介

こうした動きが大都市圏を中心に出てきたわけですが、実は今日インフルエンザのため来られなかった徳田さんの活動というのもその一つです。
2015年の建築学会教育賞に選ばれた徳田さんのプロジェクト「ストック型社会におけるリノベーションスクールを通じた人材育成と地域再生事業」では、先ずスクールに集まった人たちでユニットを作り、ユニットワークとして実際の空き店舗等の改修計画を立て、遊休不動産オーナーに向けてプレゼンテーションをします。
【実際にリノベーションを行った建物の写真】長年空いていた福岡小倉駅前の雑居ビルがワーキングスペースになったり、木造廃屋がカフェになったり、中古アパートがシェアハウスになったりしました。
このプロジェクトは、個々の活動ではなく、ネットワーク化したスクールとして事業計画を立てて活動し、またそのノウハウを全国に展開しているわけです。面白いのは「スクール」と名前をつけて「教育」としている点で、事業者が集まって事業をしているというよりも、リノベーションに興味のある若者に集まってもらって「学校」のように活動を続けて行こうとしているのです。
2015年、徳田さんは大阪市立大学を会場に「リノベーションまちづくり学会」という学会を設立しました。先のスクールに来ていた若者たちや若い大学教師を中心に、すごい数の人々が集まりました。

おわりに

新築を作るということも大切ですが、現場でいま使われずに余っている空き家等をどうやって新しい空間にしていくかということが、特に若い世代の建築を志す人たちの非常に大きなテーマになりつつあります。徳田さんの学会設立というのも、その流れの象徴のように思います。
このあと、3名の講演者からお話をして頂きます。皆さんお若いです。一つお断りしておく必要がありますが、彼らはあまり大津について詳しくはなく、また長等合同宿舎を見て頂いたのも今日が初めてです。事前に写真や図面をお渡しして、案を考えて頂きましたが、きちんとした事業計画書ではありません。しかし、リノベーションの第一線でご活躍されている彼らの新しい考え方から、皆さんも長等合同宿舎の新しい見方を発見して頂ければと思います。

◆いしまるあきこ(リノベ女子代表)氏による講演

→東京在住。「いしまるあきこ一級建築士事務所」主宰。古い建築の活用を目指す「建てたがらない建築士」。
セルフリノベや大学での研究設計、WS開催やアーティストマネジメント、各委員会所属、テレビ番組の企画・制作など、活動は多岐にわたる。

古い建築の展示イベント

先ずは「同潤会記憶アパートメント」についてです。東京の表参道ヒルズが建つ前、そこには同潤会青山アパートメントという建物がありました。関東大震災の復興住宅です。これの解体が決まった後、一般の方にも建物内に入ってもらうきっかけを作るために、「アパートの中でアパートの展示をする」ということを試みました。靴を脱いでくつろいで頂けるようにしたところ、6時間滞在された方もいました。アパートの中でアパートについて考えてもらい、メッセージカード(室内に設けた網に吊り下げていく)やアンケートへの記入をお願いしました。2002年から10年間、7回にわたる同様のイベントを大阪等でも開催し、改修後の建物内でも行った結果、延べ来場者数は2万人を超えました。
このイベントをリスタートするべく、「Re 1920 記憶展」というものを始めました。「リノベーション」「1920年代」「同潤会アパートメント」の3つをテーマに、古い建築の活用方法を探るための展示イベントです。北九州や福岡、東京や大阪など全国のリノベーション建築を旅しました。主に一人で企画をして、地元の方との共催でやっています。2014年夏には、被災地の石巻でもこのイベントを行いました。津波の被害にあった歓慶丸ビルディングを保存・再生・活用していこうということが決まったので、勝手にお祝いをするべく近くのギャラリーでイベントを行い、地元の方から歓慶丸ビルディングの思い出・記憶を教えて頂きました。(http://kioku.info
「空き家開き」という、空き家を開いて空き家ではなくすというプロジェクトも行いました。いま全国に820万戸の空き家があるそうです。2014年7月、東京の湯島にある空き家で、先ずは空き家をとにかく「使う」ため、ゲストにアサダワタルさん(日常編集家:大津市在住)を招いて「空き家開きトーク01」を開催しました。アサダさんは家に住みながら開く「住み開き」ということを提唱されていて、「空き家開き」とも何か繋がるのではということをお話して頂きました。

セルフリノベに関するプロジェクト

自ら手を動かしてリノベーションすることを、セルフリノベと呼んでいます。
先ずは「つくるーむ」プロジェクトについて。「創るために住みました 住むために造ってます」ということで、賃貸の自宅兼事務所を、こつこつ私一人でセルフリノベーションしました。2DKの小さな賃貸住宅を、先ずは押し入れを解体し、畳を剥がしてフローリングをはって、壁に漆喰を塗ったりもしました。費用は材料費のみで、30万円でできました。完成後はオープンハウスとして、一般の方々に見て頂く機会を設けました。一日80人の来場者数があり、セルフリノベへの関心の高さを実感しました。
このように女子一人でもセルフリノベーションをやってしまう人を「リノベ女子」と言いまして、全国でリノベ女子を見つけてスカウトしています。リノベーション建築を会場にしたインターネット中継番組「リノベ女子トーク」を行い、それぞれのリノベ経験談を語ってもらったりしています。(http://renojo.com
また、セルフリノベに関する女性や初心者向けのワークショップも開催しています。「漆喰塗りWS@大阪」は、セルフリノベ中の長屋を会場にしました。レクチャーのあと、実際に漆喰をこねるところから始めて、塗っていきました。一人だと滞りがちなセルフリノベの作業ですが、ワークショップを開くことで多人数で進められます。材料費は家主持ちで、ワークショップ参加費(2000円)は講師代に充てました。「調味料棚作りWS@大阪」は、簡単な棚を作ることを通じて電動工具の扱いを学ぶワークショップです。「セルフリノベWS@東京・大阪」は塗装メーカーさんと一緒に、モザイクタイルの施工体験とペイントの施工体験を実施しました。
「Reプロジェクト」は、オーナーやその友人も参加するセルフリノベとワークショップです。「Re Jelly Jelly Cafe」では、渋谷のコワーキングスペースにおいて塗装と家具作り体験を実施し、私の方ではキッチン等を作り、総額40万円(材料費、一部家具購入費)でセルフリノベが出来ました。「Re吉祥寺マンション」では、古いマンションのトイレの壁紙を剥がし、モザイクタイルを貼っていきました。5万円(材料費)で出来ました。「Re明かり」は、照明器具の取替だけで部屋の雰囲気を変える、電気工事不要のセルフリノベです。ダクトレール+スポットライト(9千円)、ペンダントライト(2千円)など、ネットショップやネットオークションを活用すれば、安い材料費だけでガラリと空間を変えることが可能です。
「ねこのいえ」は、私が子猫を保護してきて飼うことになり、そこから始めたプロジェクトです。「羽田のねこのいえ」というのをスタートさせまして、これは東京23区で探してきた安い物件をセルフリノベーションしてねこ向き賃貸にしよう、というものです。250万円の戸建住宅でしたが、中の荷物を自分たちで処分することで170万円で購入できました。現在、壁や不要な天井を撤去し、柱や梁を綺麗に磨き、断熱材を入れて快適な環境にしているところです。猫は特に温熱環境に対して敏感ですので、猫にやさしい空間というのは人間に対してもやさしい空間であるという指標になります。羽田のねこのいえのリノベーション費用は、100万円以内を予定しています。

Re長等合同宿舎

以上のような考え方で、私なりに長等合同宿舎のリノベーション案を考えてみました。
現在、滋賀県は関西で唯一の人口増の県であると聞きました。大津から離れた市ではマンション建設ラッシュのようです。大津は京都や大阪のベッドタウンとなっていますから、マンションデベロッパーは常にマンション用地を探しています。毎日新聞によると、長等合同宿舎の用地は評価額3億円でした。これは業者にとっては安い値段ですので、放っておけば敷地・容積めいっぱいのマンションが建つでしょう。つまり前提条件として、団体や企業さんが買い取らないことには始まらないということです。
大津には豊かな自然があり、それを目指して若者が移住してきていると聞きます。都市機能として、若者を迎え入れる地盤もあると思います。そこで私の提案ですが、「できるだけお金を掛けない」「無理しない」ということで、セルフリノベーションです。

①セルフリノベ賃貸住宅

最近、セルフリノベ可能な賃貸物件を紹介するDIYPというwebサイトがあったり、URでもDIY賃貸というものを始めています。また、一棟丸ごとリノベマンションをやっている業者さんも増えました。

②店舗

webマーケットやクラフト市、フリーマーケット等、規模は小さいながらも自分の作ったものを見てもらいたい・買ってもらいたいという動きが非常に多くなってきています。そういう方々向けの小さな店舗を、合同宿舎にも入れてみてはどうでしょうか。

③宿泊施設

最近、各都市でゲストハウス、ホステル等の簡易宿泊所が増えています。実はこういった簡易宿泊施設が移住のための最初の入り口になっているようです。非常に簡素な設備ですが、宿泊料も安く、誰も文句を言いません。実際に運営をしている方からは、「初期費用が少ない割に、利用者は多いので結構儲かるんですよ」と聞きます。

④ねこ賃貸住宅

現在、人間のこどもより犬猫の方が多く、しかも犬よりも猫の方が多くなっています。しかしペット可の賃貸住宅は少なく、大津でも少ないと聞きました。さらに「猫付き賃貸」というものが話題になりましたが、これは最初から保護猫を付けて部屋の貸出をするものです。

これら4つの要素を組み合わせてみたら良いのではないかと思います。①②は入居者が、③④は運営者が費用を自腹でセルフリノベしてくれますし、①②の人たちが③④の運営者にも成り得ると考えます。
【セルフリノベ案における合同宿舎の配置図】一号棟は「店舗・宿泊棟」、二号棟は「ねこ棟」、三号棟は「セルフリノベ棟」というイメージです。

  • 一号棟:一階〈店舗と宿泊施設〉、二階〈店舗〉、三〜五階〈宿泊施設〉
  • 二号棟:一階〈店舗とねこ賃貸住宅〉、二〜五階〈ねこ賃貸住宅〉
  • 三号棟:一階〈店舗とセルフリノベ賃貸住宅〉、二〜四階〈セルフリノベ賃貸住宅〉

エレベーターを付けることも出来ますが、一基1千万円ほど掛かります。

【セルフリノベ案における合同宿舎の図面】構造的には壁を一部抜くなども可能でしょうから、2部屋をくっつけて大きく使うこともできます。店舗・宿泊棟にはイベント室やカフェ、宿泊施設の事務所を入れ、セルフリノベ棟にはセルフリノベ用のグッズショップや工房を入れ、ねこ棟には猫カフェや猫シッター(ベビーシッターの猫版)施設を入れます。
外観に関しては、今ある柵を極力取っ払ってしまって、あとは階段室を色分けして塗装します。外観改修はお金が掛かりますので、「何か変わったな」とちょっとした気付きになるようなセルフリノベなら可能だと思います。
先ずは、「ここを変えたい」「ここからスタートしたい」という人を集めて、出来ることから始めることが重要だと思います。そうすれば地元住民にも、観光客にも、移住者にも喜ばれる場所になると思います。あまりお金を掛けずとも、変えることはできるのではないでしょうか。
私からのご提案とお話は以上です。ありがとうございました。

中川

キーワードはセルフリノベということでしたね。皆さんは、いしまるさんがセルフリノベをやっているから宿舎でもセルフリノベを進めたい、と言っているように聞こえたかも知れませんが、セルフリノベというのは必ずしも突飛なものではないのです。例えばアメリカでは、一般の人でも大工のスキルを持っていて、その人たちが集まって一緒に大工仕事をするなんてことは普通に行われています。恐らく日本でも、今後このような流れが出てくると思います。いしまるさんがやっている事というのは、これからの我々の生活環境を考えたときに、非常に参考になるような話だったと思います。

◆コイケシホコ(大阪市立大学准教授)氏による講演

→一級建築士事務所「ウズラボ」共同主宰。市立大学が取り組んできた大阪豊崎の長屋の再生事業(豊崎プラザ)を担当。この事業はグッドデザイン賞など多数の賞を受賞し、これによる「再生ストック活用力育成プログラム」で日本建築学会教育賞も共同受賞。

今から10年程前、とある小さな戸建住宅を一人暮らしの高齢者用住宅に改修しました。その時、リノベーションには何か新築にはない可能性があるんだなと感じ、それから10年間「都市に学ぶ」ということをテーマに大阪市立大学で取り組んできました。

大阪長屋の再生プロジェクト

「京町家」と聞くと、皆さん素敵だなというイメージを持たれると思います。一方「大阪長屋」と聞くと、落語に出てくる裏長屋のような、あまり良いイメージではないのかなと思います。しかし実際は、大阪の長屋には町屋敷を模したような立派なものが沢山あり、そこでは古くからの住民と若者が共生し、様々な可能性を秘めた暮らしが展開されています。大阪長屋は、都市にありながら空が近く、地面があり、日本人の暮らしの智恵が詰まった建物です。【大正期の大阪の絵地図】大阪の住民は、江戸時代からずっと賃貸(借家)で住んでいました。地図に描かれているように街じゅうが長屋で、市民の暮らしと長屋暮らしというのが密接に関わっていたのが分かります。
【現在の大阪市北区・生野区の長屋分布図】しかし現在、これら大阪長屋の多くが取り壊され、マンション等に建て替えられています。北区ではほとんど取り壊されて一部にしか残っていません。生野区ではまだ残っていて、群として分布しています。行政はこういった建物を「老朽化した、問題のあるものだ」と捉え、また同時に「宝物」とも考えています。こうした二つの側面を抱えながら、長屋の再生に取り組んできました。古いものを読み解き、歴史を尊重しながら、だけど若い人が住みたくなるような暮らしの場へと改正してきました。
【再生長屋の写真】こちらは耐震シェルターを入れた長屋です。色々な方法で耐震補強をしていますが、最近の事例ですと、補助金を利用して国産の杉を使ったシェルターを入れています。土壁など、長屋の持っている良さはなるべくそのまま使い、安心して住める長屋賃貸として提供しています。今ここは若い男性3人がシェアして住んでいます。【改修工事のときの写真】こんな風に、学生たちと一緒に長屋の再生を行っています。その中で学んだことがあります。この写真は、古い建具を洗ってもう一度再利用しているところですが、この建具の寸法というのは五尺七寸と決まっていて、江戸時代からずっと変わらずに使われています。また天井板を洗って再利用したり、襖を貼り直したりしましたが、先程いしまるさんの話にあったセルフリノベーションのように昔の日本人は自分の家を自分で手入れして、時間の掛かった良い住まいとして熟成させていきました。このようなことを学びながら、再び若い人が住める場所へと長屋を改修しています。【改修した四軒長屋の写真】写真手前の二軒には新しくやって来た人が住んでいて、奥には古くからの住人が住んでいますが、そういうところもリノベーションの良さだなと思います。住む人は長屋暮らしを楽しんでいて、隣のおばあちゃん家で朝ご飯を食べたりと、空間だけではなくその場所に住むということを楽しんでいます。
私達はこれを情報発信したいと思い、色々な賞にも応募しましたところ、GOOD DESIGN賞のサスティナブルデザイン賞を頂きました。ここで評価されたのは、古い空間を活用している点と、このような長屋再生プロジェクトがまちづくりへの波及効果を持つであろうという点でした。
この受賞を受けて、最近5年くらい取り組んでいるのが「オープン・ナガヤ大阪」というイベントです。長屋の暮らしを一般に開き、もっと長屋愛好家を増やしていこうという催しです。「暮らし開き」をテーマに、長屋の店舗、住居、賃貸、分譲を問わず開き、「地面に接した長屋暮らしにはこんなことが出来るんだよ」ということを発信し、古いものをまちぐるみで活用していこうと取り組んでいます。開催期間は年1回の2日間で、2015年は大阪市内・堺市内あわせて30ヶ所で開催しました。行政の支援が無い訳ではないのですが、いまのところは長屋の住民と大阪市立大学とで手作りでつくっているイベントです。2015年は2日間で延べ2000人の来場者があり、年々長屋への関心が高まっているのが分かります。このような活動を通じて「新築にはないリノベーションの可能性」を感じています。古い建築にはそこに長い時間(歴史・愛着・思い出)がすでに掛けられていて、リノベーションによって人々(交流・巻き込み・チーム)を動かすところにも可能性があります。一見、新築よりも効率が悪いように思われますが、リノベーションは人々への効果といいますか、出来上がったときに色々な人にとって幸せな建物になる可能性が高いと思います。またすでにその地域に在るものを使いますので、そのエリアに対する貢献も期待できます。
平成25年の調査では、全国の空き家率は13.5%といわれています。そのような中で、リノベーションは持続可能な社会(循環型の消費スタイル)の実現の一助になるものと感じています。「少子高齢化」「家族形態の変化」「環境問題」「安全・安心への取組み」「地域政策・再生」などの社会問題に、直接的ではなくとも応えることが出来るのではないかと思います。
【大阪の町家の写真】大阪には長屋だけでなく町家も存在します。これは明治期に建てられた町家のリノベーション前の写真です。道に面した建物部分を減築、壊すということだけで、人々にとって開かれた建物になりました。今は、2週間に1度くらいのペースで「おふくいち」というマーケットを開き、2日間で500人程の来客があります。これは、長い間まちの人々から認識されていた場所が「変わる」、そういうものの持つ力だと思います。

泉北ニュータウンの再生プロジェクト

大阪長屋には文化財的価値がありました。しかし、1970年代に開発された泉北ニュータウンには文化財としての価値はありません。計画人口18万人のこのまちも、現在では高齢化が進み、今後のまちの在り方について課題を抱えています。今日の長等合同宿舎にも似た団地が、駅の向こういっぱいに広がっているようなまちです。泉北ニュータウンでは、問題意識を持ち、まちを開いて新たな住人誘致を行っています。
そこで「SENBOKU STYLE」というものを掲げています。泉北ニュータウンの魅力を考え、泉北らしい暮らしをSENBOKU STYLEと名付けてみんなで発掘していこうという取り組みです。ここはニュータウンですが、公園や緑が沢山あり、またニュータウンの間には古い集落があって、農業をしている人々の暮らしのすぐ隣に住宅地が広がっています。このような特徴を捉えながら、魅力を発信していこうとしています。
大阪市立大学としては、産・官・民・学の4つの連携で、泉北ニュータウンの空き地や空き家を使うことに取り組んでいます。高齢化の進むこのまちには戸建住宅、集合住宅、店舗がありますが、空き家となっているものもあります。空き店舗を地域のレストランに、団地の空き部屋を高齢者の住み易い支援住宅に、或は空いている戸建住宅をデイサービス施設に変えるなど、地域内の6ヶ所ほどを拠点にして、この5年ほど地域の空きをリノベーションしてきました。関わっている人々は地域のNPO、自治体、大学、行政の方たちです。また泉北ニュータウンの住宅種別現況は、約50%が公的賃貸住宅(団地)に占められます。その空き家率は9.5%となっています。このような空き家を単純に使うのではなく、福祉的用途を取り入れて使うことに取り組みました。
【地域レストランの写真】これは、シャッターの降りていた空き店舗を、地域の方々が毎日ご飯を食べに来られるレストランに改修したものです。【高齢者向けショートステイ施設の写真】団地の空き室のリノベーションでは、長等合同宿舎のような内観をもつ3DKの空き室7部屋を、市立大学の学生が改修計画を立て、高齢者が二人ずつショートステイできる場所にしました。受け入れられるまでに少し時間が掛かりましたが、今では稼働率が90%を超える状況です。畳を敷き詰めた部屋、南北の開口部をつないだ明るい部屋、伝い歩きのために棚状の手摺を巡らせた部屋など、高齢者が使い易い部屋に改修されました。
【戸建住宅の写真】こちらはニュータウン内に建つ築40年ほどの戸建です。どことなく、懐かしさが感じられる建物です。古い電飾やガラスの模様、そういったものを尊重して残しつつ、さらにSENBOKU STYLEらしい住まいにしようということで改築が進められました。実際に行ったのは、小さな、10㎡以下の増築でした。敷地が広く陽当たりのいい郊外の団地の良さを引出すために、キッチンを増築し、料理が楽しくなるような家にリノベーションしました。わずかな増築だけで、家全体の魅力も増幅できたと思います。
以上のように、大阪市立大学では、まちに入りながら、地域の空きを使ってリノベーションに取り組んで来ました。

長等合同宿舎リノベーションへのアイデア

今日ここへ来る以前に、長等合同宿舎の場所を教えてもらっていて、地図でその敷地を確認してみました。すでにその立地だけで「魅力的な場所」「行ってみたくなる場所」「成功を約束された場所」だと感じました。ここにマンションが建ってしまうとなると、余程うまく計画しない限り、景観の良さが今より増えることはないと思います。だけど今ある宿舎を利用することで、この場所の魅力を増やすことは出来ると思います。
リノベーションには新築には無い可能性がある、ということの例をお持ちしましたのでご覧頂きたいと思います。
【ナショナルギャラリーの写真と図面】ロンドンに、Robert Venturiという建築家が造った(増設した)美術館があります。本来の美術館の横に新しい棟(と入口)を増築することで、旧来の玄関から入ったときに感じられる奥行きの凡そ二倍のパースペクティブを感じられるようになりました。これは新築のデザインではなく、リノベーションによって生まれたダイナミックさだと思います。【サックラー・ギャラリーの写真】こちらもロンドンにあるNorman fosterが行ったリノベーションの実例です。歴史的建造物と歴史的建造物の間に、新たに階段室とエレベーターを設けています。これにより、人々の動線を整理するとともに新たな驚きをも生んでいます。階段を上がっていくと最上階に彫刻作品があり、それは台のようなものに載っています。でもこの台のようなものは、実は隣の建物の屋上(パラペット)なのです。このような可能性を引き出すことも、長等合同宿舎で出来れば良いと思います。
【卒業設計の図面】丁度、私の研究室の学生が卒業設計で団地のリノベーションを提案していましたので、ご紹介させて頂きます。これは泉北ニュータウンの団地を対象に計画したもので、「51C型」と呼ばれる建築計画的には標準プランとされる間取りを扱っています。「51C型」やこれの派生型というのは日本全国で見られ、間取りの違いなどに魅力を感じる「団地マニア」を惹きつけ、或は当学生のように団地への懐かしさを感じさせるものでもあります。この魅力というのは、長等合同宿舎にとっても同様です。【卒業設計の外観イメージ】かなり大胆ではありますが、元々の箱型の建物に何かをつけ加えることで、変化をつけて新しさを感じさせています。団地というのは周囲(敷地)に余裕をもって建てられていることが多く、室内は古いですが周囲は庭も含めて一帯的に捉えられていますので、長等の宿舎の場合なら、琵琶湖疏水や三井寺をひとつの環境として捉えたときに建物自体の魅力も増していくのではと思います。
【建築事務所の事例の写真】私の建築事務所が入っているマンションは、神戸の兵庫運河(人工の運河)の近くに建っています。阪神淡路大震災の直後に急いで建てられたもので、何の変哲もなく、年々価値が下がっていっています。これを住民の手で少しずつリノベーションを行うと、未来にはすごく魅力のある建物になるのではないかと思います。兵庫運河には昔たくさんの木材(丸太)が浮かべてありまして、今も周囲には材木屋が残っています。そこで出た廃材を使って、マンションの室内を少しずつリノベーションしています。これがどんどん外へと溢れ出すと、特徴のなかったマンションも生まれ変わるのではないかと思っています。
長等合同宿舎では、先の学生のような大胆な改修の可能性も秘めていますし、このような少しずつ手を加える改修の可能性もあると思います。今在る建物を見直していくと、リノベーションの魅力も増し、このエリア自体が肥沃になっていくと思います。以上です、今日はありがとうございました。

中川

コイケさんはやっぱり、デザイナーですね。我々建築をやっている人間というのは、「空間やデザインでもって、世の中をどう変えられるか」ということが一番中心的なテーマになってきます。そういう意味では、コイケさんのご提案はリノベーションの王道をいっている感じでしたね。さて、コイケさんは大学をベースにしているわけでしたが、次は、実践的にまさに民間ベースでやられている山根さんにお話を頂きたいと思います。

◆山根健太郎(建築設計事務所エキスポ)氏による講演

→一級建築事務所「エキスポ」共同主宰。大正時代の雰囲気が残る老舗旅館の元ダンスホールをカフェバーとして蘇らせるなど、京都において、主に住宅や店舗の改修やリノベーションの設計に取り組む。

はじめに

私が独立して事務所を構えようと思ったのは1998年のことでした。京都市内の物件を探しまわっていたのですが、適当な物件が見つかりませんでした。そんな中、東山区でシェアオフィスを作るということを考え、6人のメンバー(グラフィックデザイナー、現代美術家、木工作家、画家、建築家2人)で「先ず自分達で働く場所を作っちゃおう」ということになりました。物件オーナーに出資して頂き、8年返済で、家賃として返していく形を採りました。事務所の場所は東福寺駅近くですが、この辺りは高齢者率が京都市内でも最も高い地域ですので、20代の若者6人が入ってきて毎日仕事をするだけでも大変ありがたがられ、面白がってもらえました。その後、近くの倉庫をリノベーションすると、アトリエとして使用する芸大生が現れるなど若者の拠点が出来ていくきっかけにもなり、まちづくりの一貫にも役立てたのかなと思います。
【当時の事務所リノベーションの写真】基礎や躯体の柱などは知合いの大工さんに頼み、私たちは床を張ったり開口の窓を設けたり、ほとんどの物は自分達で造りました。【事務所横の倉庫の写真】これも味わい深い倉庫でしたが、片付けや一部補修を行うことで、今ではイベント会場に使用したりしています。中にはここでウエディングパーティーをする方もいて、こういう場所が素敵だと感じられる若い人が結構居るようです。
今でこそシェアオフィスと呼ばれるものは沢山ありますが、私たちのオフィスは16年ぐらい前の話ですから当時としては早い方で、しかも現在まで続いています。つまり、「若い人が集まる場所ができる」ということが「まちづくりそのもの」に繋がるのではないでしょうか。

古ビル内の美容室の施工事例

【大阪農林会館の写真】2001年、美容室のインテリアの仕事を頂きました。大阪農林会館という建物の一室です。この建物は、戦前から焼失せずに存続している非常に珍しい、風格のある古ビルです。現在では多くのショップが入っていますが、2001年当時はオフィスがほとんどを占めていました。しかも、建物外観は風格があるのですが、室内は間仕切りなどで古い物を覆い隠しているという状態でした。新しい壁紙を貼って、のっぺりとした空間になってしまっていて、非常に違和感を覚えました。そのことがきっかけとなり、この古ビルで内装施工をするのであれば、多少汚くてもいいので剥き出しになったもの、朽ちたものをわざと見せてしまおうということを作業の軸としてデザインしていきました。【美容室の壁の写真】以前オフィスだったときの壁紙を剥がしてみると、写真のような古く汚らしい壁が出てきました。お施主さんに「このまま使いたい」と伝えると、「美容室は清潔さが命なので、お客さんがどう捉えるか不安だ」と仰ったので、ニス塗装をして汚れが付かないようにすることでなんとか許可を得ました。非常に理解のあるお施主さんのお陰もあり、このような内装でオープンすることが出来ました。【美容室全景の写真】間仕切り壁は古材をつなぎ合わせてパネルにしています。今ではインターネットで古材を買えますが、当時は南港へ出向き、不要なパレットを譲ってもらいました。それを分解して並べ、繋ぎ合わせていったのですが虫が湧いてきてしまい、全てを燻蒸しなければなりませんでした。二度とやりたくない作業ですが、自分たちで作った分思い入れがあります。
新しい素材や奇麗なだけでは表現出来ない魅力が、時間を経た建物・空間には残っており、その表情や痕跡を大事にしたいと思うようになったきっかけがこの物件でした。

元家具工場→商業空間施設への改修事例

【建物外観の写真】2003〜04年にかけて、京都市左京区の荒神口にある古い家具工場跡をコンバージョン(用途変更)しました。カフェ、アンティーク家具屋、雑貨屋の3店舗を同時に入れる商業空間施設を、すべて自主施工で作るという、相当エネルギーのかかるプロジェクトでした。
大きな物件というのは家賃が掛かり、持て余すので、若い借り手はなかなか見つかりません。そこで二階のカフェを経営されている方が、先ず自分で一棟借りて、一階部分を小割にして賃貸に出すという形をとりました。貸す相手を決めた後、その人たちに出資させて、その出資額にあわせてリノベーションをしました。この手法を採ったため借り手もすぐに決まり、現在でもうまく回っているようです。
【リノベーション風景の写真】解体には2ヶ月ほどかかり、破壊してはゴミを捨てに行っての繰り返しでした。時々プロから道具を借りて、自分達でコンクリートの床をはつったりしました。面積的にも200平米を超える空間のリノベーションでしたから、多くの友人・知人を巻き込み、またワークショップ的に学生たちにも手伝ってもらうことで作業を進めました。一緒に作業をしていると祭のようなグルーブ感が生まれ、建物への愛着や情報の共有にも繋がりました。また、建具等の残っているものは補修し、極力再利用することにしました。
リノベーションは現場でなければ決められないことも多く、作業中、その場でリアルタイムでデザインが決まっていくグルーブ感というのは、参加者の一体感を強めるきっかけにもなると思います。

築400年の旅館→カフェへの改修事例

【旅館外観の写真】2007年、京都市下京区の島原地区(もと花街)にある元老舗揚げ屋さんのリノベーションを行いました。この建物は江戸時代のもので、揚げ屋さんのあとは旅館(「きんせ旅館」)になり、その後30年ほど空き家になっていたものです。【旅館内部の写真】中に入ってみて印象的だったのは、今では手に入れることが出来ないような、幅広の屋久杉の板、特殊な釉薬を使って焼かれたタイル、珍しいステンドグラス等々が、無価値なもののようにバラバラに交ざって置かれていたことでした。それぞれ時代の違うものが交ざって置かれていることから、この建物は50年おきくらいに改修が繰り返され続け、そして今に繋がっていることに気が付きました。そこで私は、時間を継承する仕事をすべく「50年後の人が愛してくれるデザインにしよう」と思いました。また同様に、過去とも時間を繋ぐために「50年前の人からも愛されるデザインでないといけない」と思い、50年前のきんせ旅館の空間はどのようなものだったかをイメージしながら造っていきました。【改修後の写真】これが改修後の室内ですが、来訪者に「ドコが新しくなったのか、見分けがつかない」と言ってもらえることが嬉しいのです。文化的価値のある建物に対してどれだけ手を加えずに改修するか、ということにチャレンジしました。
過去から未来へと続くその場所の記憶を、共有し継承することができるのもリノベーションの魅力の一つではないかと思います。

オーナーの生家→シェアハウスへの改修事例

【建物外観の写真】2012年、これはある不動産会社が主導で行ったリノベーション事例となります。西陣地区にある大きな町家(250平米くらい)を改修するプロジェクトで、オーナーはこの町家で生まれ育った方ですが、当時はもう出られて空き家になっていました。この町家は広いため一棟貸しが難しく、また小割にして貸そうにも奥にながい町家の形状ではなかなか借り手がつかない状況で、結局、建て替えてマンションにしようという話になっていました。不動産会社の話では1億円くらいかかるとのことでした。しかし思い出のある建物ですから、「リノベーションして保存し、シェアハウスにしましょう」と提案しました。若者8人が入居できる町家型のシェアハウスを、最終的にマンション建設の半額ほどでつくることが出来ました。【改修後の写真】京都は景観条例がありますから、外観はある程度和風に造りました。内観は若者のニーズに合わせて洋風のものを取り入れました。共有部分の面積は60%と贅沢に使い、キッチンやお風呂を充実した造りにしました。
個人の思いや記憶を保存したり、また再構築できるところもリノベーションの魅力だと思います。

空き家→一棟貸しの宿への改修事例

【空き家外観の写真】2014年、京都市下京区の高瀬川沿いにある空き家をコンバージョンし、一棟貸しの宿へと改修しました。現在、京都ではそういうのが流行っていますね。街中で宿泊施設が建てられたり、リノベーションされています。元々この空き家のオーナーは、高瀬川との立地が良いので飲食店への改修を希望されていました。しかし店子はまだ決まっておらず、明確なイメージのないまま改修してもあまり上手くいかないのでは、と思った私は一棟貸しの宿の事業計画書をつくり、逆にこちら側から提案をしてみました。マネジメントと運営もこちらで引き受け、さらにリスクも共に負うべきだと考えましたので、設計料(報酬)に関しても粗利の数%をいただくといういわゆる成功報酬型の契約を結びました。これによりオーナーも「この設計士に頼んで良かった」と安心してくださり、また我々のモチベーションも上がりました。【改修後の写真】最初はぎりぎりの報酬でスタートしましたが、今ではリピーターも出てきている状況です。

中宇治プロジェクト

現在進行中のもので「中宇治プロジェクト」というものがあります。宇治は最近、平等院やお茶屋などを目当てに観光客が増加しています。一方で、地元の人たちは「宇治には私たちが楽しめる場所が無い」と考えておられます。そこで、宇治にある空き家をリノベーションし、地元の人が通いたくなるようなカフェ、お店などが入るような複合商業店舗空間を情報発信地として作ってほしい、との要望を頂きました。
【町家の写真】これがリノベーション予定の空き家ですが、表は町家風で、裏へ回ると倉庫のようになっています。ここは元々建具屋さんの倉庫として使われていました。今のところ内部は4つのテナントに貸し出すと決まっています、もし興味がある方は私のほうまでお声掛け下さい。

長等合同宿舎リノベーション活用について

この宿舎ならではの魅力

  1. 周辺環境(緑が豊か、桜)、立地(大きな病院)が住環境に向いている。
  2. 団地スタイルのシンプルでモダンな建物→ファンがいる。(団地萌え)
  3. 容積に余裕があり、棟間隔が広いため、ゆったりしている。(陽当たり、通風も良く、環境の良い中庭なども作れる)
  4. リノベーションすることで家賃を安く設定できる。
  5. 現代のニーズに合わない間取り(脱衣所がない、洗濯機置き場がない)なので、思い切って改装できる。
  6. 若年夫婦や子1人の家庭にとっては十分な広さ。
  7. 棟数も多すぎず(3棟)、そこそこに閉じた関係性が持ちやすい。(コミュニティの密度が上がる)
結論

一、二階に小さな商いを始める若い人たちのちいさな店を沢山作り、三階から上に、その人たちに住んでもらう。職住ほぼ一体型の小商い集積場所。こうすることで資本が外へ出て行かず、まちに対するメリットが大きくなる。
【イメージスケッチ・中庭側】どこまでお金を掛けられるかにも依りますが、例えば中庭の部分には芝をひいたりデッキを付けたりすることで、一階のカフェなどで親が休憩しながら外で子供を遊ばせることができます。また二階に沿ってデッキ(外廊下のようなもの)を付けてやることで、二階以上での横移動が難しい団地において、もう少し動きがとりやすくなるのではないかと思います。
【イメージスケッチ・疏水側】団地の一階部分というのは地面よりすこし高くなっていますので、この高さまでデッキの通路のようなものを作ってやることで、直接隣の棟のお店フロアまで抜けられるようになり、また道路の通行人に対しても訴求効果があるのではと思われます。
【イメージスケッチ・間取り】壁を抜いてやることで、疏水側のデッキから店内を通って中庭側のデッキへと抜けられますし、店をもっと広げることも可能です。

まとめ
  • 若者の移住はまちづくりそのものであり、且つ仕事場も提供することにより、流出も防げる。
  • 多くの若者に移住して商いをやってもらうため、小さくとも良いので安い家賃、内装などをセルフリノベする自由を与えるようにする。
  • 団地再生をブランド化し、周囲の文化遺産にもあわせ、消費者を他府県から呼び寄せる魅力を発信。ネットでは買えない空間体験を楽しんでもらう。
中川

山根さんは実際に、色んな事業主と深い関係を築きながら、また自分で事業に参加したりもしていますので、そういう意味では非常に面白いお話だったと思います。

***〈10分間の休憩〉***

◆意見交換・討議

中川

今、大学では卒業制作の審査時期なので、うちの大学でも色々とやっています。その中で、学生の自由設計でも「リノベーション系」は非常に増えてきていますが、しかしこれに関してこちら側からの質問というかツッコミは、「それはやるのはいいけれども、誰がやんねん」ということなんです。つまり「事業者が誰か」という話がどうしても欠けがちなわけです。今日の話も、3人とも実際の仕事だから事業主があるわけですが、その辺りが話の中で欠けていた部分があるかと思います。これはリノベーションを社会的プログラムで考えるときに重要な話になるかと思うのですが、まあ、その話はまた後で触れたいと思います。
元々私は、建築史の研究者としてやってきた時に、建物を文化財として修復したり、そういう改修の仕事をする事に関して色々な話をしてきたわけですが、それと比べ今日の皆さんが挙げてくださった話というのは、何かやっぱり決定的に違う。その部分的には含まれているけど決定的に違う所というのは、「文化財では無い」ということですね。「文化財」という定義は難しいところはありますけど、簡単に言うと、文化財の場合にその建物の価値というのは外側からやってきている、既に担保されているということ。実際に重要文化財に指定されたり、登録文化財に指定されたり、あるいはそういう指定がなくても、「これはどう考えても地域の文化財だよね」とみんなが価値を共有している。しかし今日の話の中に出てきたものは、そうでは無いものが多い。そうでは無いものの価値って一体誰が見つけるのだろうか、ということが私もわからないところで、何か実際の経験でもいいのですが、教えてもらいたいと思うんです。そういう価値を見つけるのに、個人的な価値だけだったらリノベーションの事業にならない。いしまるさんの場合は個人的な価値に見えなくもないが、実際「事業」になっていて、進めて行くと、例えばリノベ女子の会なんかで、ああやって人が集まってくるわけですよね。つまり、個人的に「こういうものを残した方がいいよ、改修した方がいいよ、その方が面白いんじゃない」という価値をどうやって見つけるのか。またそれをどうやって他人と共有していけるのか。そんなところを、まず3人に聞きたいんだけれども、どうでしょう。

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いしまる

今、大学では卒業制作の審査時期なので、うちの大学でも色々とやっています。その中で、学生の自由設計でも「リノベーション 系」は非常に増えてきていますが、しかしこれに関してこちら側からの質問というかツッコミは、「それはやるのはいいけれども、誰がやんねん」ということな んです。つまり「事業者が誰か」という話がどうしても欠けがちなわけです。今日の話も、3人とも実際の仕事だから事業主があるわけですが、その辺りが話の 中で欠けていた部分があるかと思います。これはリノベーションを社会的プログラムで考えるときに重要な話になるかと思うのですが、まあ、その話はまた後で 触れたいと思います。
元々私は、建築史の研究者としてやってきた時に、建物を文化財として修復したり、そういう改修の仕事をする事に関して色々な 話をしてきたわけですが、それと比べ今日の皆さんが挙げてくださった話というのは、何かやっぱり決定的に違う。その部分的には含まれているけど決定的に違 う所というのは、「文化財では無い」ということですね。「文化財」という定義は難しいところはありますけど、簡単に言うと、文化財の場合にその建物の価値 というのは外側からやってきている、既に担保されているということ。実際に重要文化財に指定されたり、登録文化財に指定されたり、あるいはそういう指定が なくても、「これはどう考えても地域の文化財だよね」とみんなが価値を共有している。しかし今日の話の中に出てきたものは、そうでは無いものが多い。そう では無いものの価値って一体誰が見つけるのだろうか、ということが私もわからないところで、何か実際の経験でもいいのですが、教えてもらいたいと思うんで す。そういう価値を見つけるのに、個人的な価値だけだったらリノベーションの事業にならない。いしまるさんの場合は個人的な価値に見えなくもないが、実際 「事業」になっていて、進めて行くと、例えばリノベ女子の会なんかで、ああやって人が集まってくるわけですよね。つまり、個人的に「こういうものを残した 方がいいよ、改修した方がいいよ、その方が面白いんじゃない」という価値をどうやって見つけるのか。またそれをどうやって他人と共有していけるのか。そん なところを、まず3人に聞きたいんだけれども、どうでしょう。

中川

それはその通りですね。いしまるさんの話を聞いていると、むしろリノベーションすることの「趣味みたいな部分」を、共有していく拡がりのような話なんですよね。これは実は昔からよく言われていますけれども、日本人の住文化のなかでかなり欠けていた部分で、本来あるはずなんだけれども共有されていない。つまり建築を「消費する」のではなくて「維持していく」、そういう感覚は特に戦後の我々の世代から欠けていたところがあって、社会的使命感というよりはむしろ趣味的にそういう部分が拡がっていくことが重要だなという風に思いましたね。
コイケさんは何かありますか。

コイケ

「価値」という話ですけど、「新築に価値が見出せていない時代」にもう来ているのかなと思うんです。これまで新しい建物を建てるときに、敷地に対する価値だけで判断していたと思うんですけど、同じように「そこにある建物もひっくるめて価値を見出す」ということが既に始まっていると思うんです。
合同宿舎の場合だと、2つの大きな価値があるかなと思っています。一つは、さっき団地萌えという話がありましたが、全国にちょっとした違いの同じような団地がたくさんあるので、うちの団地はこういう特徴があるんだというのを持って、日本全国と比較できる。そういう団地としての価値というものが既にあるのではないかと思います。もう一つの価値というのは、この場所が持っていて、「豊かな敷地の中に建っている」ということです。この「すでに良い立地を持っている」という意味は、既存の建物を含めてあって、新たに建物を建てようという見方ではありません。あの合同宿舎を見た時、文化財的価値は無いかもしれないですけど、違う価値はいっぱいあるのではないのかなと感じています。

中川

それもずっと指摘されていることですよね。建物の価値を、例えば値段で判断するとなると、不動産ということになるのだけれども、不動産屋さんの示す価値って、古い建物は全くゼロでしょ。なんの評価もしない訳ですよね。単なる「上屋付き」というだけになってしまう。その辺は、例えば東京のR不動産だとか、若い連中の間で「新しい不動産のシステム」なんかをつくろうという動きが表に出てきていますけれどもね。
山根さんはどうですか。

山根

「誰もが見てこれを残したいなというもの」じゃないところに何か面白いものを見つけたい、そういう視点を常に持つようにしています。例えば、住宅で使い古された柱の、一部分だけがすごい汚れているようなところがあったら、「家族の人がこのコーナーを曲がる時、いつも手をここに触れながら角度を変えて歩いていったんだろうな」という物語を感じますよね。そうやって一部分を切り取ってみたら、次に空間が全然違って見える。そういうストーリが湧いて出て来るようなパーツを色々見つけたいな、と思っています。ある種、キッチュな視点がはいるのかもしれませんが、そういう見方で、いわゆるお金には変えられないものを見つけようとはしていますね。

中川

わりと今、少なくとも住まいに関しては、自分が暮らしてきた空間に対する「思い」みたいなものがすごく大切だ、ということが社会で共有されつつある時代だと思うんですね。それが以前までとは決定的に違ってきていることかなと思います。注目したいのは、いしまるさんが「展覧会」というものを結構やっていますよね。あれはやっぱり、そういうものが共有化していくようなものに見えたんだけれども。
いしまるさんの活動の中では、展覧会はどういう位置付けにあるんでしょうか。

いしまる

展覧会は、そもそも同潤会青山アパートという場所が個人的にとても大切になってしまったので、それを知ってもらう、見ていただくという場をつくるために始めました。ただ、「消えた建物について話す」だけではなかなか伝わりませんので、それ以外のもっと前向きな「リノベーションでの再生活用の事例」とか、「1920年代の建物」、そういう他の要素を取り入れることで拡がりを持たせられるのではないかと思いまして、テーマを拡げました。また展覧会と同時に、例えばリノベ女子トークを一緒にやっていたり、ワークショップを実際の展覧会の場でもやっていたりしますので、色んな切り口で色んな方々が来てくださいます。そうすると、伝わらなかった人にも届くようになるというか、届けたかった人により届くようになります。自ら番組をつくるような感覚で、色んな方に見ていただけたら嬉しいなと思って展覧会をやっています。
先程の価値の話ですけど、補足で、「セルフリノベというのは社会現象ではないか」と感じております。今ある住まい、新築ですとか流通している賃貸住宅、それに満足しない方が自分らしく変えたいという風に思ってセルフリノベをしていたり、自己表現の一つとしてセルフリノベを楽しんでいらっしゃるのではないのかなと感じています。「セルフリノベOK」とか「ペット可」ということ自体、求めている人がいるので、それ自体が価値になっているのだなと感じます。不動産として価値が生みだせる、そういう要素になっているなと思います。

中川

私は個人的にいしまるさんの「展覧会」もそうなんだけど、徳田さんの「スクール」というのもすごく面白いなと思っていて。「リノベーションっていうのは学校である」つまり、人々が集まってきてある種教育的な場でもある、という何かどこか共通してるんだよね。それを共有して、みんなで何かを学んでいく。
その辺は、例えばコイケさんなんかはそれを大学でやってるでしょ。今のところ日本では珍しいタイプですよね、大学でリノベーションに本格的に入り込んでやっているというのは。もともと大阪市大でなんでそこまで入れ込んでしまったのかも含めて、お話頂けますか。

コイケ

「教育」という意味では、今の時代、建築をつくるということがかなり罪悪というか、新築を建てること自体が社会にとって求められていないと若い学生は感じています。それで建築に対しても希望が持てなくなっていますが、こうやって地域に出てリノベーションをすると、まちに建築の力が求められていることがすごく実感できます。そういう何か彼らが学んでいくためのモチベーション、或はリアルに今の社会と繋がって建築をつくることの必要性を感じるという意味でも、すごく大事な教育だなと感じています。
また去年の秋には徳田先生と一緒に「リノベーションまちづくり学会」の第1回目をうちの大学でやりましたが、すごく関心が高くて、あまり情報発信できなかったのですけれども、日本全国から100人くらいの方がどっと集まって、熱い議論をされ、そこにすごく可能性を感じている方がたくさんいらっしゃいました。印象的だったのは「リノベーションは手間隙はかかるんですけれども、儲からない訳ではない」、むしろ今までとは違う話として、「最小限の手間で最大限に利益を得る作り方じゃなく、すごく手間隙かかって時間もかかるんだけど、効果がすごく大きい」ということが議論されていたことです。

中川

そのへんのお話は、山根さんが指摘したことにも通じそうですよね。山根さんの事務所は設計事務所だけれども、あまり建築家というイメージではない。仲間でこうワイワイやりながら、正に設立初期の頃なんかは本当に自分たちでセルフリノベでやっていましたよね。セルフリノベというか、外注が一切無い、全部自分たちでやっていたわけだけれども、その辺に何か価値を置いている。つまり建築家というのは従来だったら自分でデザインを実現して、ということを必死に考えるんだけれども、山根さんたちの場合は自分でデザインというよりもむしろ集団で、或はその周辺を巻き込んで、そこで何ができるかということを汲み上げていく。なんか建築家のタイプが変わっているなという印象がすごくあります。
山根さんは大学院を出てすぐ独立して、どこにも勤めないでそういうことを始めたわけですけれども、最初からそういう思いがあったのですかね。

山根

モノがつくりたいというのは最初からありましたね。それが新築である必要が特になかったんです。最初は規模の話からして小さい仕事しかこないわけですよ。家具とかを作る仕事とか、小さい看板とかを色んなお店に作っていくようになっていって、その仕事が評判になると今度は店舗のインテリアの仕事が来るようになって、そこから住宅の設計とか新築であるとか、そういうふうに拡がってきたので。特にこのジャンル(リノベーション)にという風に考えていたわけではないんです。けれども、実際に自分で現場に出て、その日の朝にですね、同じ設計をしている仲間と共に「今日はここを工事するんだけれども、どういう作り方にするか」と考えるわけです。その場合に図面が無かったりするわけですけれども、リアルタイムに決まる即行感とかジャズ的なライブ感みたいなのは、ものすごく効率は悪かったのかもしれないですけれど、むちゃくちゃ気持ちいいわけですよね。レシピを見て料理をきちんと量って作るのではなくて、「これだけ余り物が冷蔵庫にあるけど、じゃあ何かをもう少し足したらこんな美味しいものが今日できそうだぞ」というワクワクな感じ。そういうものにハマった時期がありました。例えば庭師とかを見ていると、大概縁側とかに座って「今日はドコ切ったろかな」っていう風にじーっと図面無しに考えてから動くわけですよね。そういう物をクリエイトする人たちと建築家がそんなに離れているものではないんじゃないか、という風に思ったりもして、そのスタイルは今でも嫌いではないですね。

中川

そういう意味では、建築家も大工や庭師に戻ってるのかなという感じがしないでもないね。今でもそうだけれども、うちの卒業生でも、大半はやっぱり「大きな設計事務所に最初就職したい。そこでやってる大きな建築の仕事の一端をやって、修行して、独立しても修行の結果として独立するんだ」みたいな感じですね。さっきコイケさんも今の学生の思いみたいなことを言ってくれたんだけれども、やっぱりちょっと違ってきているのは確かなんでしょうね。ですから、そういう意味でも、リノベーションというのは建築のテーマとして比重が大きくなってきているといえます。
これは長等の話にも関わることで、長等の場合には、団地みたいなものですけれども、でもその機能が終わってしまったわけですよね。勿論、だからそれをもう一回住宅として再生するという可能性もあるわけですけれど、最近、「コンバージョン」という言葉も常に言われているわけで、つまり「用途を変えてしまう」、そういうものの自由さみたいなのもリノベーションの面白さとだということです。コンバージョンとは新しい機能を持たせるということだから、これは単純に、建築の側が「こんな機能にしたら?」と言うだけではなかなか説得力を持たない。つまり「社会的な機能としてこういうものが必要だ」と言えなければならない。これはコイケさんなんかも同じかもしれない。大学で教えていると、必ず学生の案で「こういうコンバージョンを考えました」というけれども、「ほんまかいな!?」というのがある。
なんというか、「社会的に今何が必要か」、つまり「住む以外のことで何かアイデアを出すこと」に関して、これは凄く難しい質問かもしれないけれど、みなさんはそのアイデアみたいなものはありますか。

いしまる

私が提案した中で、「住む以外のこと」だと、「店舗」と「宿泊施設」の話を入れましたけども、宿泊施設に関しましては、たとえば尾道とかでは空いた店舗をコンバージョンしてホステルを作ったそうです。そういったところの話を実際に聞くと、やっぱり移住希望の方が何週間とかそこに滞在しつつ、次に住めそうな場所を探したりとか、実際住んでみたらどんな感じかなとか、そういうことを体験するために訪問されていて、ホステルはその人たちの受け皿になっていると聞きました。つまり、移住促進にひと役買っているんだよと。実際、これも申し上げましたけれども、作りが非常に簡素でも誰も文句を言わないので、初期投資があまりいらず、簡単なものでも始められてすぐにお金の回収ができます。そうすると、そのあと運営して行くときに雇用も生まれますし、収益も上げていくことができます。尾道の方も、「作ってみて非常によかった」と仰ってました。他にも、鳥取でやっている方などはもう2号店を作るほど、非常にうまくやっている例があります。ですので、長等の宿舎にももしそういう機能があったら、一旦そこに滞在をするかもしれないですけれども、その後大津とか滋賀県内に移住しようかなと思っている人たちの受け皿になり得ると感じています。
あと、山根さんのご提案にもあったと思いますけれども、小さいお店をたくさん設けることで、通って商売される方ですとか、その上階に住まれる方ですとか、そういう場所を作ることで商売が生まれるということ。観光客の方とか地元の方もそこでお買い物したり、楽しい場所になり得ると思います。「住む以外のこと」ではその2つをあげました。

山根

この物件に、結構大きい店舗を入れる場合、そのリスクを取れる人がいるんだろうかというふうにまず考えたので、いわゆる大きな商業施設であるとか、そういうものは難しいんじゃないかというふうに結論したのがひとつあります。それで「小さい店舗」「若者にチャンスを与える」っていう話に持っていきました。ほかの案としては「大学の研究拠点」にするとか、大学同士が連携・交流を図れるような場所としての使用方法なら、もう少し公的な話も含めて、いい場所になるのではないかなというふうに考えたこともあります。けれども、商売的なことで言うと、もっと琵琶湖側の方にも既にいろいろありますので難しいのかなと。
この辺りの地域のことをあまり分かっていないってこともあるんですけれども、何か疏水に絡めたミュージアムのようなものを含めて「公園」にしてしまう、というアイデアもあります。私は京都で子育てしていますけれども、単純に子供をおよがしておくというか、走らせられるような芝生の公園だったらそれだけでめちゃくちゃありがたいなと思うんで。住まなくても公園になってる、芝生がひいてある、というリノベをするだけでも、子供連れの家族にとっては休みごとに来たくなるような場所になるのではないかなと思います。

コイケ

事業主が誰かということで何を入れるかというのは変わると思うんですけれども、それはまた後でと中川先生が仰っていたので、とりあえず何を入れるかというのを考えると、「いろんな時間軸の人が一緒に過ごせる」ことが大事かなと思います。住人はずっとそこにいるので、長期で住む人と、さっきのお話のような宿泊施設の短期滞在の人とが両方ミックスされるとか、そこの施設を使う時間軸の人がいくつかいるほうが上手くいくのではないかというふうに思います。あとは、住むだけじゃなくて、こういうリノベーションの物件に住みたい人はかなり活動的な人が多いので、住むだけでは飽き足らない人が多いでしょうから、ちょっとした小商いのような、自分の商売スペースとか事務所機能があるとか、自分の暮らしを表出させるような場所が在るほうが良いのかなと思います。「住むプラスアルファ」というプログラムが適切なのかなと。あとは、こう言う立地だと、若い人だけではなく高齢者の方が活躍することもあればいいのではないかと思いますので、何か管理するとか「福祉的な視点の用途」がそこに入ってきていろいろミックスされると、より可能性が広がるのではないかと思います。

中川

今日は「長等のリノベーションを考えよう」という趣旨なわけですけれども、もう一つそれに付随する重要な課題というのが今の話だと思います。つまり、「使われなくなった施設を何にするのか」ということですね。いろんな可能性があるわけですけれども、なんとなく今ずっと全国でどんどんと出てきているリノベーションの実例を見ていると、今コイケさんが言ってくれたように、「住むプラスアルファ」ですよね。つまり、いちばん最初の話にもつながるんだけれど、住むことにものすごくこだわりを持ってる人が増えているということが事実で、住むことの延長で商売をしたりとか、新しいコミュニティーを増やしていきたいとか、そういう人たちが増えているのは確実なわけで、そこに対するアイデアも出していくということが重要になっていくのかなと思うのですが。それと同時に、そういうものを「誰がプロデュースしていくか」ということですよね。「ここはこういう場所で、楽しいですよ」ということを誰が。最初に福家さんがコンセプトと言いましたけれども、まさにコンセプトを誰が作っていくのかっていう話です。今日ここまでの話で、コイケさんのはちょっと大きな仕事もあったけど、いしまるさんや山根さんなんかは、割と小さな規模の仕事ですよね。そのような中で、今回の長等のことを想定した場合、ああいう規模のものだと事業主ってどんなイメージになるんでしょうかね。また、プロデュースをされているご自身の経験からしても、どういう事業主が出てくるのが望ましいと思われますか。

いしまる

現実的なところで言うと、最近、一棟まるごとリノベーションをしている企業がいくつかあります。そういう企業なんかがここを気に入ればですね、買い取って地元に根差すような形でリノベしましょうっていう話も起こり得るなと思っています。理想で言えば、地元のどなたか若しくは団体等が、リスクを負った上で、地元を盛り上げるために運営もしていくということが理想だなと。地元の、自分が住んでいるところのためにやるほうが当然力は入りますし、いい加減なことは絶対しないので、そういう方がいたら嬉しいなと思いますけれども、でも大きな金額の話ですのでなかなかそう簡単にはいかないとは思います。ですから、そういうことを事業としてやっている企業を誘致するということも1つの手段かなと。

中川

志はあってもノウハウがないということもあるからね。その辺が難しいところだけれども。
2人は何かアイデアありますか?

コイケ

「事業主」という話ですが、「泉北ほっとけないネットワーク」という先ほどご紹介した私たちが泉北ニュータウンでやっているものの事業主を考えると、事業主は1つではなくて社会福祉法人と、NPOが2つと、福祉的な事業をやっている事業者と計4者いるんです。その4者は別に協定を結んでいるわけでもなんでもなくて、それぞれがやっている取り組みを同じテーブルで議論しながら進めてきているということなんです。例えば長等の宿舎も三棟あるので、「三棟とも事業者が違う」ということが出来ると、リスクも減ると思うんです。
泉北ニュータウンを一緒にやっているNPOの方に、この合同宿舎のことをちょっと相談したら、その人は「例えば分譲してしまって、自分が家主になって、家主になった人がもう1部屋で小商いをしたら事業が広がるじゃないか」というアイデアを出されたりしました。多分、この事業主をどうするかということ自体も、みんなで議論して決めていっても良くて、どこか大きなところ一つに任せなくてもいいっていうのがリノベーションの良い所なのかなと、部外者の言うことですけれど、そういうことを感じたりしています。

中川

さっきちょっと紹介したけれども、URなんかは最近「マネージャー制度」というのを作っていて、つまり、事業主はいるけれども、今コイケさんが言ったように複数の事業者がよってたかってというか、長等もそういうものでいいと思うんだけれども。でも多分、その場合にはマネージャーみたいなものが必要ですよね。全体を統括できる、コントロールしていくようなね。その辺が難しいんですけれども。
山根さんは長等の事業主についてどう考えますか。

山根

ほぼいしまるさんと同じ意見だったんですけど、地元の有志の方が数名でチームを組んで、会社を立ち上げて始める、そして1人のマネージャーを頭に立てるというやり方がいいのかなと。私が複合的なお店とかいくつか見た中で、やはりトップに立っている人が1人じゃないと決断のスピードが遅くなることもあるし、後々に分裂する可能性があるので、誰か1人に力を上乗せして片寄らせておくことが大事なのかなと思います。いろんな意見がありすぎて動かないという状況がなくなるようにして欲しいなと思うのと、あと、経験のある設計士とか建築士が居るので、そういう人たちにアドバイスを求める。そのアドバイス料としての報酬だけでも関わってくれるような体制になりつつあるのではないかと思いますし、そういう建築家の在り方もありますので、尋ねてみてもいいのかなと思います。

中川

その話の発展系でもあるんですけれども、東京なんかを見ていると、確かにそういう「ノウハウ」みたいなのがいっぱいあって、例えばいしまるさんのような人が活躍できる土壌みたいなもの、環境みたいなものがあると思うんですね。ところが、やっぱり大都市を少し離れると――、大津については3人とも「非常に魅力がある」と、それは誰が見てもそうな訳ですよ。やっぱり三井寺の歴史があって、緑があって、琵琶湖もあって、琵琶湖疏水があって、と素晴らしい土地なんですよ。なんだけれども、それをどうやって、本当に魅力的なものとして活用できていけるかという話は、非常に洗練された手法がどうしても必要なところがあってね。普通に住んでいる地方都市の人達の環境の中で、そういう新しい、「大都市を中心に起きているようなことっていうのを、どうやって波及していけばいいのかな」というのが、私もこうやって何年もお付き合いをしながら常に考えてしまう事なんですけれどもね。
大津のことでもいいんだけれども、「地方都市に於ける文化的なものと、それを育てていくようなアイデア」と言ってしまうと少しテーマが大きくなっちゃうんだけれども、何かありますかね。

いしまる

よく「まちづくりで街を変える人は若者・馬鹿者・他所者」という話がありますけれども、ホステルとかを始めるような人も、他所から来た人たちで、その場所に魅力を感じたので、色んな人にもっと知ってもらいたいってことで始めましたという方がやっぱりいらっしゃいます。ですので、「魅力を感じて動く人」を見つけるしかないかなと思います。それと、さっきの「誰がプロデュースをするのか」という話は、割と動き始めれば誰かがやると思うんですけども、今回の長等の場合で一番問題なのは、競売にかけられるということです。結果誰かが買うと思うんですが、その買った方がどういう意思で何をするかで、だいぶん方向性が変わってしまうので、そこを押さえない限りは、なかなか「活用」という話に結びつかないと思うんです。なので、そこを先ずなんとかしたいなっていうのがありますし、有志の方でなんとかできると一番いいなっていう風には思います。

中川

皆さんがやってこられたのは、割と小さな活動を積み上げていくみたいな話なので、今回の場合はそういうやり方はなかなか通用しないかなというのは確かにあってね、そこが難しいところなんだけど。コイケさんなんかは、大学で色んな地方に入っていくわけだけれども、大学も部外者だったりするわけでしょ。そのときは、どうやって入っていくんですか。

コイケ

そんなときもリノベーションってすごく良くて、新築の建物を建てたくて入っていくと、何が建つかわからないのですごく警戒されるんですけど、空き家に入っていくと「掃除してくれるの?」とかって、とりあえず歓迎されるので、入っていくことにそんなに苦労したことはないですね。どこでも、とりあえず高齢化も進んでいるので、学生と掃除をしていると受け入れられるというのがあるので。本当は合同宿舎も、今は立ち入り出来ないですけど、みんなで掃除をして、みんなでマルシェをやったりすると、一気に人が集まってきてアイデアが生まれてくるんだろうなって思います。あそこに入れて使えるようになりさえすれば、色んな智恵が集まってきて「こんなことしたい、あんなことしたい」っていう人が現れるのではないかなと思います。まあ、そこがハードルなんですよね。

中川

ちょっと、時間も来てしまうんだけれども、会場の方でどなたか質問などありますか。

質問者

今日は大変興味深い、刺激的な話をいただきましてありがとうございます。地元の博物館に勤めている者です。
先程コンバージョンの話が出ました。コンバージョンで一つ加える重要な点があると思いまして。合同宿舎は、あれもいわゆる日本の集合住宅にありがちな典型的な南側信仰の建物ですよね。でもあの立地の最大の恩恵を享受する、そのポイントというのはやっぱり北側の景観にあると思うんです。単に目の前の琵琶湖疏水とか近隣の三井寺だけではなく、実は背後に拡がってる比叡山とか比良山景とか、奥に展開している琵琶湖の開けた風景とか、京都にはありえへん眺望の効いたスケール感。
私も家に、京都から友人を呼ぶと、みんなやっぱりびっくりしはります。しかし今の宿舎のつくりではそれを享受できない状態になっています。大津の湖岸っていうのは結構北側がどれも素晴らしいんですけれど、でもなぜか湖岸のマンションとかも全部南側を向いてしまっています。スイスのレマン湖岸に住んでいる知り合いとかが、大津の湖岸のマンションに来て、「何故みんな北側を向いていないんだ」とびっくりしてはりましたけども、ですからあの合同宿舎も、コンバージョンをして大胆に北側の眺望を取り込むような要素をですね、最大限の付加価値を持たせるのがいいと思うんです。住民が入居を考えるとき、「やっぱり合同官舎に住みたい」と思える決定打的な付加価値、それを実現するようなコンバージョンを、先程ご提示いただいた案の上に乗せていただけたらなと思っています。

中川

大変重要な話だと思います。確かに景観政策みたいな話も重要で、「団地」っていうのは、今は団地萌えみたいなものもあるんだけれども、もともと団地ってかなり暴力的なものなんですよね。合同宿舎もかなりそうであって、なんであんな琵琶湖疏水が隣接しているところに壁のように建てているんだっていう問題があって、今だったら、新築であれを作るんだとしたら有り得ないですよね。そういう意味でも非常にネガティブな部分を確かに持っている。
じゃあ、その辺ちょっと聞いてみようかな。古い建物を活用するってときに、古い建物は当然ネガティブな部分もあるじゃないですか、そういうものはどう考えたらいいでしょうか。

いしまる

普通は北側だとマイナスな要素ではあるのですが、合同宿舎は本当に北側の景観がいいので逆にプラスの要素にできるというか、コンバージョンというほどの大きなことを言わなくても、北側のほうが景観がいいので値段を高く設定できるとか、そういう話はできるかなと思います。あとは窓をもう少し改良してあげるとか、そういう変え方はできるかなと思います。

山根

既存の物件を見に行ったら、必ず良いところと悪いところの両方が見つかるわけで、むしろ悪いところの方がたくさん見つかるわけですけれども、長所の部分はのばしつつ、ここは問題だなと思うところをできる限り「違う方向に目を向けさせるリノベーション」をすることによって、弱点を弱点と感じさせない、本当は弱点のままかも知れませんけど、そういうつくりに内部もしくは外部から変えていくのがいいと思います。例えば、住宅とかを買われて、その窓から隣の家のベランダの洗濯物が丸見えの位置に大きな窓が開いているような場合、そちら方向を開放的にするのは難しいんですけれども、そこで何か内側に視線が向くような仕掛けとか、そういうレイアウトによって、違う方向でその窓を楽しむ方法がないのかと考えたりします。価値観だけでなくて、見え方を変えていくというのも建築家の仕事かなと思っています。

中川

長等の宿舎で言えば、例えば「減築」もありえると思うんですね。つまり今の階層の一番上を取ってしまうとか。これは技術的な問題もあるから、簡単にはいかないかもしれないけど、そういう可能性だって当然あるわけですよね。コイケさんはなにかありますか。

コイケ

さっきのご指摘にあったみたいに、外の環境をどんどん取り込めていけたらリノベーションって良くなっていくので、今日宿舎の辺りを歩いて感じたんですが、疏水をどんどん取り込んでいくのに、今は敷地境界線というのが一応ありますけど、そういうのを度外視して色んなことを計画、例えばマルシェとかそういう場合は計画できると思うので、疏水の手摺も一部変えるとか、実現するかわからないですけどそういうことも一緒に考えていけるとすごくいいなと思いました。それに今日こちらに来て、この建物(三井寺 事務所・講堂)が木でできていて、新しいんですけど、木造なんですかね、そこがすごくいいなと思って、今度の合同宿舎も何か少しだけ増築するときに木造をうまく使っていって景観を整えていったりすると、いっぱい夢がひろがりそうだなと思います。

中川

時間が来てしまいましたけど、夢がふくらむというかですね、やっぱりこういう仕事をしている連中は私を含めてそうですけど、あの建物を見て、夢がふくらんでしまうんですね。今日も雨が降る中、皆で外から見てたんだけれども、「こんなことができるんじゃないか、あんなことができるんじゃないか」と。単純に汚い用済みの建物と見るか、夢がどんどん膨らむものとして見るかっていう違いなんだろうと思うのですが、我々のそういう想いというのかな、これからの建築を考える時に、今の時代はそういう方向になってるよっていうことをちょっとでも分かって頂ければいいかなという風に思います。

今日は長いことありがとうございました。

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